和楽器ことはじめ


カテゴリ:心の琴線(4)( 4 )



三郎治さん(その3)

三郎治さんは、稽古についてこう語っている。

「『吾妻八景』なら一日7,8回は稽古する。通して納得のいくまで弾く」

   あんなに長い曲を集中して弾くのはたいへんなことです。


「同じ曲を1,000回稽古したとする。1,001回目で、まさに三味線の音しか聞こえなくなり、三味線と体がひとつになったときにはじめて、三味線に命が吹き込まれ、いい三味線となる」

   唄とともに弾く場合の喩えです。無心になるということでしょう。宇宙を感じるということでしょう。仏教ですね。


「素人には素人の弾き方がある。プロの真似をするな」


   正確に弾くことがまず肝心で、プロの技巧をにわか仕立てで自分のものにしようと思うなということですね。


「棹を引き擦るな」

   これは、なかなか難しいんです。手が速くなればなるほど左手が追いつかなくなり、どうしても引き擦ってしまいます。棹から手を放している余裕がないんです。しかし無闇に引き擦ってては、曇った汚い音になってしまうからだそうです。ただし、これは先生のクセによって、引き擦っていいところもあります。研精会譜でいうと、「2・→3・」や「3・→#4・」などです。
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by wagakkiya | 2005-06-07 23:57 | 心の琴線(4)


三郎治さん(その2)

 その男は、帽子を取った禿頭で、こう言った。
「私、知らない?」     「いえ、存じません」

「テレビにも出てるんやけど」     「さあ」

「三味線弾きに見えませんか?」     「・・・・・・」

 関西弁でもわりと上品な部類、いわゆる「京ことば」で、一気にまくし立ててきた。さも、自分が有名人だと言うように。しかし、私も知らないものは知らないので、ただ「すみません」とだけ軽く答えておいたが、饒舌に話されるので、つい聞き手に回ってしまう。

「三郎治ゆうんやけど」

 楽器屋なら知ってて当然というふうに自分の名を名乗られたが、私がきょとんとしているので、まいったなという顔つきで、ここに来た理由を述べられた。要約すると、以下のようなことである。

 自分は茶会席の出張専門の料理人で、松江の○○美術館のお宅に出張してきたところだ。このへんの名工と言われる窯を見て回ったが、自分の目にかなうものがない。帰りに米子に寄って、美術館で素人が陶芸の作品展をやっていたので、ふらっと入ったら思いのほかいいものがあった。で、これから行ってみようと思って、歩いていたらふと楽器屋が目に留まり寄ってみた。楽器屋のような老舗なら、このへんの陶芸家にも詳しいかと思って、知っていれば伺いたい。また地方の楽器屋では、掘り出し物に出会うことがあるので、もしかしたらと思って。


 ちょうど、私が長唄を習い始めた時期だったので、もっとお話を伺おうと思い、立ち話もなんなので、どうぞお茶でもと椅子を引いた。お口に合うかはわかりませんが、うちの抹茶を一服いかがですか、と。あとで、この対応をいたく誉められたが、とにかく蘊蓄をたくさんお持ちの方のようで、なにがしか訊きたかったのだ。

 「私も長唄を始めまして・・・」と言ったら、
怪訝そうな顔つきで、「なんで長唄なんか! 三味線やろ」と言われる。
「あ、ですから長唄の三味線です」と答えると、「ほんならええわ」と急ににこやかになった。

「あの、唄と三味線って難しいですよね。合ってるようで合ってないというか・・・」
私のこの疑問に対して、三郎治さんは、吾妻八景(あづまはっけい)の「砧の合方」を引き合いに、こう答えられたのである。

「唄に合わすのではなく、唄とつかず離れず弾くのが肝心」

「目につく秋の七草に拍子通わす紙ぎぬた~」(二上り)
このあとが砧の合方である。この「紙ぎぬた~」の「た」(ア)の音を引きずりながら、合方の出だしの「テトン、テトン」(#4 #1を2回弾く;楽譜ではテツン)に入るのだが、最初の「テトン」はややゆっくりで唄に対してやや控えめに、次の「テトン」は、三味線が合方へ引き込むようにはっきりと弾く。このバランスが大事だという。

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この弾き方に近いのが、下記のCD。三味線は芳村伊十七である。

長唄
今藤長之 杵屋禄三 杵屋勝国 芳村伊十七 米川敏子 中川善雄 今藤尚之 竪田喜三久 望月長樹 望月太喜雄 / コロムビアミュージックエンタテインメント
スコア選択: ★★★★

 新しい録音でややエコーが効きすぎだが、今藤長之の艶っぽい声に合わせ三味線も華やか。松の緑、秋の色種、岸の柳、吾妻八景の4曲を収録。三味線は4曲とも芳村伊十七、杵屋勝国のコンビ。

 特に「岸の柳」は独特で、ゆったり聴かせていて、後半、三下りのあとの本調子から鼓がテンポを作り、笛も加わり力の入っためくるめく展開を見せる。

 「色種」の琴の手事の合方では、米川敏子の琴が入り、まさに「みだれ」の雰囲気。

 「八景」の砧の合方は「テツン」の入り方からお見事!でおすすめ。
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by wagakkiya | 2005-06-05 06:29 | 心の琴線(4)


三郎治さん(その1)

 ちょうど、去年の今頃だった。ふとウチの店に、ひとりの男がやってきた。白い綿パンにアイボリーのポロシャツを着た細身でチューリップハットをかぶったやや小柄の男だった。年の頃は60代前半、滑舌よくしゃべる好人物だった。帽子を取ってあいさつされると、禿頭が出てきて、寺の住職らしき風貌に思えた。

 「ケジメの三味線ない?」
 店に出た私に対しての第一声がこれだった。『ケジメ?』私は、あらゆる知識を総動員して答えを出そうとした。その男は、ガラスケースの三味線を指さして、さらにこう言った。
 「黒檀しかない?」

 私はようやくピンときた。「ケジメ」とは「牙締め」つまり、象牙の糸巻の三味線という意味だった。
 台座が竹製で、上に薄く象牙を入れてある駒のことを、「入牙の竹駒」などと言ったりする。この場合は「にゅうが」だが、象牙のことを略して「牙」と呼ぶ。すなわちケジメとは、ゾウゲの「ゲ」を濁らず粋に言う言い方なのだろう。

 こういう例は、江戸の粋な言葉によく出てくる。縁起を担いだ清い言い方であり、たとえば、「駒形」(地名)を「こまかた」と言ったり、「ふぐ」のことを福にかけて「ふく」と言ったりするのも、この例だろう。また、少し違う例えだが、「日本橋」を大阪では「にっぽんばし」と言うが、東京は「にほんばし」と平坦な読みで濁らない。

 またケジメの「ジメ」というのは、「締め」であり、糸巻きのことを音締め(ねじめ)と言うからである。これは長唄の「岸の柳」に出てくる。「~\締めて音締めの三味線(さみせん)も 誰に靡く(なびく)ぞ柳橋(やなぎばし)・・・」

 ともかく、「ケジメ」がなんだかわかったところでホッとしたのも束の間だった・・・・・・(つづく)
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by wagakkiya | 2005-05-28 02:28 | 心の琴線(4)


リンクさせていただきました



どこに書いてよいやら、はたと困ってしまったので、お知らせ方々、記事にしちゃいました(笑)

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by wagakkiya | 2005-04-28 03:40 | 心の琴線(4)

    

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